東京地方裁判所 昭和33年(ワ)9689号 判決 1966年2月26日
原告 醍醐利郎 外二名
被告 株式会社小糸製作所
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
原告ら訴訟代理人は、「原告らはいずれも被告会社の従業員であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
第二請求原因
一 被告会社(以下「会社」という)は、照明器具等の製造販売を業とする株式会社であり、原告醍醐(以下単に醍醐という)は昭和二八年二月、同宮城(以下単に宮城という)は昭和二一年五月、同根岸(以下単に根岸という)は昭和二三年三月いずれも期間の定めなく会社に雇傭され、会社品川工場に勤務していたものである。
二1 会社は、原告らに対し、全国金属労働組合東京地方本部小糸製作所品川支部(以下「組合」という)が、昭和三一年三月から四月にかけて給与改訂等を要求して争議を行つた際、原告らには違法な行為があつたが、右行為は就業規則第六六条の懲戒事由に該当するとして、昭和三一年一一月一二日付懲戒解雇の意思表示をした。
2 会社の解雇理由と称するものは、次のとおりである。(一)組合は昭和三一年三月三一日指令第三〇号で、「紛議中は組合も社内物品の盗難、破損等に対し責任の一端を負わなければならない場合もあるから、今後すべての物品の社外持出については、斗争委員会に届出、許可を得るべし」との指令を発し、違法な出荷妨害行為をなすよう組合員に指示した。(二)組合は、三月三一日品川工場正門付近において、細貝課長が会社製品の搬出をしようとしたところ、これを阻止した。(三)前同日宮城は、他の組合員とともに螢光燈二〇個、白熱燈二四個、進入角標示燈二台をほしいまゝに組合事務所に持去つた。(四)四月四日組合員は、会社に無断で自動車前照燈用硝子金型一二、三種を組合事務所に持去り、その後も同様他の一二、三種の硝子金型を組合事務所に持去つた。(五)前同日組合員は甲野主任からC型天井燈一個を威力を示して交付方を要求し、これを受取り持去つた。以上はすべて原告らがその責任を負うべきものである。
三 しかしながら、右解雇の意思表示は、いずれも次の理由により無効である。
1 前項(一)の指令は、組合員に対する指示としてその内容自体何ら違法なものでなく、(二)の出荷阻止については、会社の細貝課長らは組合側の口頭説得、団結示威の範囲内における僅か一五分余の交渉の結果、自主的に現場から退去したものであり、(三)および(四)の会社製品等の移動については、会社責任者の了解を得ており、また(五)の事実はなく、天井燈は甲野主任が任意に組合員に交付したものであるから、原告らには何ら就業規則第六六条の懲戒事由に該当するような事実はない。
2 就業規則第六七条には、「懲戒は会社、組合各々同数の委員をもつて構成する懲戒委員会の審査に基いて会社これを決定する」と定められているのにかかわらず、本件各懲戒解雇については右手続が経由されていない。
3 本件各懲戒解雇は、原告らが別紙組合活動経歴表記載のように組合の重要な活動家であつたことを理由とするものであり、かつ組合の弱体化を目的とするものであつて、不当労働行為である。
第三被告の答弁ならびに主張
一 答弁
請求原因一および二の事実は認めるが(ただし、解雇理由は後記のとおり)、三の事実は争う(ただし、就業規則第六七条にその主張のような定めがあることは認める)。
二 主張
1 解雇理由
原告らは、いずれも上記争議当時組合の最高責任者(醍醐は執行委員長、宮城は副執行委員長、根岸は書記長)であつたが、次のとおり、しばしば違法な争議指令を発して組合員に違法な争議行為をさせ、かつ、みずからも違法な争議行為を実行した。
(一) 物品の搬出阻止等
(1) 組合は、昭和三一年三月二八日から四月二日に至るまでの間、常時組合青年行動隊員に会社の警備所を占拠させて会社施設を不法に使用し、かつ、警備員の事務の遂行を阻害し、また本社職員ならびに顧客の正門からの出入を妨げて会社の正常な業務を妨害した。
(2) 原告らは、謀議のうえ、昭和三一年三月三一日組合員に対し、前述指令第三〇号(上記第二、二、2、(一))を発し、さらに次のような出荷妨害行為を指導し、かつ、みずからもこれを実行した。
イ、三月三一日午後一時頃、非組合員荻野已代治がリヤカーに後楽園野球場向けナイター用投光器の修理部品を積載し、品川工場から分工場に搬出しようとしたところ、前記警備所を占拠していた組合員ほか一五、六名の組合員がこれを包囲し、実力をもつてその搬出を阻止した。
なお、その際荻野の上司である相原工作課長が根岸に対し右妨害の排除を要求して抗議したところ、根岸は斗争委員会の決定であるから搬出は認められないと右要求を拒否した。
ロ 同日午後一時一〇分頃、本社倉庫課員井原新が品川工場から日本車輛および浜松航空自衛隊向けの製品を搬出するため、自動三輪車を誘導して同工場の正門から入ろうとしたところ、組合員一〇数名が右三輪車の前面に立ちはだかり、かつ、そのフロントガラスに手をかけて入門を阻止した。
なお、井原は根岸を組合事務所に訪ね、前記製品は緊急品である旨訴えて入門させるよう求めたが、根岸は目下協議中であると称してその要求に応じなかつた。
ハ、細貝課長は右入門阻止の報告を受けると直ちに非組合員五名を帯同して現場に赴き、同日午後二時一〇分頃、自動三輪車を入門させようとしたところ、醍醐はみずから組合員約三〇名を指揮してスクラムを組ませ、車体の前部と荷物台を押えつけさせて、その入門を阻止した。そこで細貝課長は、原告らその他の斗争委員と本社応接室において交渉し、入門阻止の中止方を要請したが、組合側はこれに応ぜず、根岸は「会社が車を入れるなら、組合は実力で阻止する」と言い、組合事務所の拡声機で「組合全員正門前に集合せよ」と呼びかけて約一八〇名の組合員を集め、これらの者に前記三輪車を取巻かせて同車の入門を不可能にし、前記製品の搬出を阻止した。
ニ、四月二日午前八時、組合は工場正門の片扉を閉鎖し、これに近接して組立式の天幕を張り、他方の片扉の通路には無断で会社食堂用長椅子を持出してならべ、かつ、これに丸太を横たえて同正門を完全に閉鎖した。そこで、会社は同日から四月一五日に至るまでの間、幾度か右障害物の撤去を要求したが、組合側はこれに応ぜず、ために会社の運搬用ならびに乗用車輛の出入は全く不可能となつた。このことにより組合は会社の工場管理権を収奪し、顧客その他の出入者に不当な威圧を加えて連続的に会社の正常な業務を妨害した。
ホ、四月五日午後二時五〇分頃、細貝課長が東京船舶電気会社へ納入すべき大型漁業用探照燈三台を自動三輪車に積載し、本社倉庫課員六名を指揮して正門から出ようとしたところ、正門ピケ隊員約二〇名がスクラムを組んでその前面に立ちはだかり、その間組合の岡田統制班長は警備員の制止にもかかわらず警備所のサイレンを利用して全組合員を非常招集し、これに応じて集つた組合員は右岡田の指揮のもとにスクラムを組み、赤旗を振り労働歌を高唱して口々に「その車を通すなら通して見ろ」と叫んで車を包囲し、車体に手をかけて車を押戻して出荷を阻止した。
ヘ、同月七日、会社は東京地方裁判所から出荷妨害禁止の仮処分命令が組合に対し送達されたので搬出できなかつた前記製品を自動三輪車二台に積載して正門から出ようとしたところ、右命令にもかかわらず、正門ピケ隊員約一〇名がその前面に立ちはだかつてまたも出荷を妨害した。すなわち、右二台中先行の一台は細貝課長の誘導で通過することができたが、後続車に対しては組合の川西斗争委員がその前面に立ちはだかつて進行を阻み、また松内斗争委員が組合員約一〇〇名を拡声機で招集し、これを指揮してスクラムを組ませてこれを包囲し、一部の者は運転台や荷台の上に乗り、一部の者はフロント硝子、車輛の前部を押えるなどして同車による出荷を阻止した。
(二) 製品等の奪取隠匿
(1) 三月三一日午後五時頃、宮城は青年行動隊一五、六名を指揮して、本社細川営業部次長ほか数名の営業担当員が発送準備中であつた日本車輛向け螢光燈二〇個および本社建物二階組立置場にあつた白熱燈二四個、進入角標示燈二台を細川次長らの制止にもかかわらず奪取して組合事務所に持去つた。
なお、四月二日午後一時三〇分と同三時の二回にわたり、前項の物品の発注会社である三和電気興業および日本車輛の各会社代表者がこれらの製品を速やかに会社に引渡して欲しい旨根岸に懇請したが、同人は斗争委員会で決定したことであるからとこれを拒否した。
(2) 四月四日午前九時一〇分頃、斗争委員林、松内、石井および統制班長岡田は、多数の組合員を指揮し、稲垣課長の制止があつたのにかかわらず、硝子金型職場から会社所有の硝子成形用金型を組合事務所に運搬させて同所に隠匿した。
(3) 同日午後二時三〇分頃、石川島重工株式会社から受注のうえ完成した天井燈五個中の一個を本社生産部甲野主任が本社事務所から工場倉庫に運搬中、ピケ中の組合員が同人に対し「組合の指令であるから渡せ」と要求し、同人からこれを奪取して隠匿した。
(三) 会社施設の損壊、面会強要による業務妨害
(1) 四月一〇日午前一〇時頃、根岸は組合員十数名を率いて工場長室に侵入し、事務用テーブル、椅子、ロツカー、窓、壁、天井等にビラを貼付してこれらを汚損毀棄し、かつその除去のために数時間執務を不可能にして正常な業務を妨害した。
(2) 同日午前一〇時三〇分頃、宮城は組合員約一〇〇名を率いて重役室に押し掛け、功力副長の制止にもかかわらず、「おれ達の会社だからかまわない、おいみんな入れ」と呼号して同室に雪崩れ込み、大声で会社幹部を罵り、根岸、宮城らは「この場で団交を開け」と強要したのに対し、会社側が「団交申入ならその途を踏んでくるように」と述べたがきかず、一時間にわたり喧騒を極めて執務を妨げて正常な業務を妨害した。
(3) 四月一二日、醍醐は組合員約一〇〇名を率いて重役室に乱入し、約一五分間にわたり怒号喧騒を極め、労働歌を高唱して執務を妨げて正常な業務を妨害した。
(4) 同月一三日午前九時五〇分頃、業務打合わせのため工場長室に赴こうとしていた功力副長、稲垣課長を組合員約一五〇名で取囲み、多衆の威力でいわゆる吊し上げを行い、同人らを脅迫して正常な業務を妨害した。
なお、右のほか四月九日には功力副長、稲垣課長を、同月一三日には田中、稲垣、大畑の各課長をそれぞれ室の内外を問わず包囲しては吊し上げ、正常な業務を妨害した。
(5) 同月一五日午後三時五分頃、根岸は掲示板のロツクアウト告知の掲示を破棄し、同日午後四時三〇分頃、醍醐もまた正門扉表側に掲示されたロツクアウト告知の掲示を破棄し、それぞれ会社の文書を毀棄した。
(6) 同月二〇日午後一時頃、根岸はロツクアウト中の会社工場に侵入し、また同月一五日にはロツクアウトのため設置した木柵の一部を暴力で破壊した。
(7) 組合は三月二八日から四月一五日までの間、会社の再三の警告を無視して会社施設内に無断で拡声機を設置し、組合員に対する伝達のために使用するほか、もつぱら騒音によつて正常な業務を妨害した。すなわち、連日本社事務室に向け、右拡声機を利用して高音でレコードを流したので、同室で執務中の従業員は頭痛を訴えるなどして事務の遂行を妨げられた。
(8) 組合は三月二八日会社外壁(白壁)、同月三〇日役員室、四月二七日会社外壁にそれぞれ無数のビラを糊で貼付けてこれらを汚損した。
(9) 組合は三月三〇日社長および工場長宅、四月六日頃役員および部課長の私宅をビラ貼りによつて汚損し、またその留守家族に面会を強要することによつて会社に圧力を加えた。
以上の行為は、争議行為としてすべて違法である。しかして右違法行為は、組合幹部たる原告らの企画・指令に基づくものないしは実行にかかるものである。したがつて、原告らはその行為につき、就業規則第六六条第二号「職務上の指示命令に不当に従わず、または職場の秩序を紊したり、紊そうとしたとき」、同第三号「他人に対し暴行脅迫を加えまたは正常な業務を妨害したとき」の各懲戒解雇事由に該当するものとして責任を負うべきであるから、会社は右各号を適用して原告らを懲戒解雇したのである。
2 解雇手続
会社は、原告らを解雇するに当り、次のような手続をとつた。
(一) 会社は、上記就業規則第六七条に基づき、昭和三一年六月二二日から同年九月八日まで前後一五回にわたり懲戒委員会を開催し、原告らの争議中の行為につき審査を行つたところ、同委員会は原告らを含む九名につき懲戒処分を行うのが相当であるとの結論に達し、その旨工場長に報告した。そこで会社は右審査の結果に基づいて原告らを懲戒解雇に付すべき旨決定したのであつて、その手続には何らのかしもない。
(二) もつとも、組合側委員は第五回懲戒委員会(八月一日)以降出席を拒否して同委員会に出席していないが、右出席拒否は正当の理由を欠くもので、そのためにこれらの委員会が不成立に終るいわれはなく、そこで行われた審査を無効と言うことはできない。
すなわち、第二回懲戒委員会(六月二七日)において組合側委員は会社作成の同委員会運営規定に不満を述べたので、会社は同規定を生産協議会の議に付し、組合側の意見を考慮しこれに添う一部修正を行つた。それにもかかわらず、組合側委員は第三回懲戒委員会(七月二七日)において運営規定の審議は未了であると異議を述べ、第四回懲戒委員会(七月二八日)においても再度運営規定につき生産協議会の開催方を申入れて議事の進行を拒否したので、議長は止むなく同人らに対し右態度を固執するならば以後審議参加の権利を放棄したものとして議事を進行するほかはない旨宣し、第五回懲戒委員会(八月一日)に先立ち重ねて文書により、もし出席を拒否するときは審議参加の権利を放棄したものとみなすほかはない旨通告した。しかも、その後の懲戒委員会にも開催の都度組合側委員が出席できるような措置をとつていたのであるから、組合側委員は全く正当の理由なく出席しなかつたものである。
第四被告の主張(第三、二)に対する原告らの認否
一、1(一)の事実について
(1)の事実は否認する。
(2)の冒頭の事実は否認する。同指令は組合の決議に基づくもので、原告らの謀議に基づくものと目されるべきでなく、また出荷妨害を指令したものでもない。
(イ)の事実は否認する。
(ロ)の事実については、被告主張の日時頃井原が正門に来たことは認めるが、井原は組合員の説得により入門しなかつたのである。
(ハ)の事実については、被告主張の日時頃細貝課長が現場に来たこと、応接室で交渉したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(ニ)の事実については、被告主張のように組合が正門を封鎖したことは否認する。なお、その主張の会社所有の器物の使用は、争議の際は慣例として認められているものである。
(ホ)の事実については、被告主張の日時頃会社側がその主張のように出門しようとしたこと、出荷を知つた組合員が労働歌をうたい、赤旗を振り、スクラムを組んだことは認めるが、その余の事実は否認する。
(ヘ)の事実については、被告主張の仮処分命令送達の事実は認めるが、出荷を妨害したことは否認する。
二、1(二)の事実について
(1)の事実については、被告主張の製品は宮城らが一時保管方を会社の現場責任者に申入れ、その了解のもとに組合事務所に運んだのであり、しかも四月三日組合の指示によりことなく返還したものであつて、奪取したことは否認する。
(2)の事実については、部分スト実施中その効果を挙げるために、業務上不要な金型を職場組合員の手で区別して置いたにすぎず、これら金型を隠匿したことは否認する。
(3)の事実については、被告主張の物品は甲野主任が任意に交付したもので、同人からこれを奪取隠匿したことは否認する。
三、1(三)の事実について
(1)ないし(9)の行為は、その実情に照し、争議中団体交渉を求め、あるいは組合員の士気をあげるために通例とられるものであつて、不法視される程度のものではない。
四、2の事実について
懲戒手続として懲戒委員会と称せられる会議が第一回から第四回まで開催されたことは認めるが、その余は否認する。
被告主張の懲戒委員会運営規定は、その性質上就業規則であることは労働基準法第八九条に照らし明らかである。しかして会社就業規則の改廃は、同規則第六九条により生産協議会に諮つてしなければならないから、右運営規定は会社と組合双方協議のうえ作成されるべきものである。しかるに同運営規定については右手続が経由されていないのみならず、労働基準法所定の届出ならびに周知がなされていないから同規定は無効というべく、組合側委員が同規定によつて運営される第五回以降の懲戒委員会に出席しなかつたのは正当な理由によるものであつて、被告主張のように故なく審議権を放棄したものと目さるべきではない。
第五証拠<省略>
理由
一、原告らがその主張のとおり会社品川工場に勤務していたところ、会社が原告らに対し昭和三一年一一月一二日付で懲戒解雇の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。
二、原告らは右解雇の意思表示は無効であると主張するので、順次検討することとする。
1 解雇事由の有無
(一) 物品の搬出阻止
(1) 成立に争いのない乙第五五号証の二、第五七号証の三、右第五五号証の二の記載により成立の認められる乙第五一号証、証人相原千太郎の供述を総合すると、次の事実が認められる。
昭和三一年三月三一日午後一時頃、荻野已代治(臨時工、非組合員)が工作課長相原千太郎の命により、後楽園野球場向けナイター用投光器の修理部品を積載して会社品川工場から同社分工場に搬出しようとしたところ、和泉・伊沢ほか一〇数名の組合員がこれを包囲して搬出を阻止した。そこで、前記相原課長が根岸に対し妨害を排除して搬出を可能ならしめるよう要求したところ、根岸は「闘争委員会の決定であるから搬出を認めるわけにはいかない」と右要求を拒絶した。
(2) 成立に争いのない乙第五五号証の五、七、前記乙第五一号証、証人細川俊夫、清水千代吉、森勝吉の供述を総合すると、次の事実が認められる。
イ 前同日午後一時一〇分頃、本社倉庫課員井原新(非組合員)が日本車輛および浜松航空自衛隊向けの製品を品川工場から搬出するため、自動三輪車を誘導して同工場の正門から入ろうとしたところ、組合員一〇数名が右三輪車の前面に立ちはだかり、そのフロントガラスや荷物台に手をかけて押返しその入門を阻止した。
なお、その際組合員は入門阻止は組合の決定に基づくものである旨を告げ、また井原が組合事務所に根岸を訪ねて面会を求めても、同人は協議中であると称して面会を拒絶した。
ロ そこで、同日午後二時一〇分頃、本社倉庫課長細貝俊夫が非組合員六名を指揮して右製品を引取るために自動三輪車で前記正門から入ろうとしたところ、再度組合員約三〇名が車の前方に人垣を作り、車のフロントガラス、荷物台等に手をかけてこれを押返して入門を阻止した。そこで細貝課長は急報でその場にかけつけた清水庶務課長、玉井総務課長らとともに、醍醐、根岸、宮城の組合三役その他斗争委員に対し本社応接室で入門阻止の妨害排除につき交渉したが、組合側は確たる回答を与えず、交渉は難渋していた。そこへ森工場長が来室し、細川課長に対し「会社が品物を出そうとするのを組合が阻止するのは不当である。話が分らなければ仕方がない。業務命令だから車を入れるように」と指示したところ、これを聞いた根岸は大声で「会社が車を入れるなら、実力で阻止する」と言つて組合事務所に走り、同所に特設された二台の拡声機で組合員全員正門前に集合するように放送を繰返した。その結果約一八〇名の組合員が同所に集合して前記三輪車を取囲みその入門を阻止した。
(3) 証人細貝の証言により現場の写真であると認められる乙第二一ないし第二五号証、前記乙第五一号証、第五五号証の五、証人細貝、清水、森の供述を総合すると、次の事実が認められる。
四月五日午後二時五〇分頃、細貝課長が東京船舶電気会社に納入すべき大型漁業用探照燈三台を自動三輪車に積載し、本社倉庫課員六名(いずれも非組合員)を指揮して正門にさしかかつたところ、組合員約二〇名がスクラムを組んでその前面に立ちはだかり、その間組合の岡田統制班長は警備員の制止にもかかわらず、警備所のサイレンを利用して全組合員を非常招集し、これに応じて集つた組合員は車の前方にスクラムを組み、岡田統制班長はその中央で赤旗を振り、組合員は労働歌を高唱しつつ口々に「その車を通すなら通してみろ」と叫んで車を包囲し、車体に手をかけて車を一、二米押戻して出荷を阻止した。
(4) 証人細貝の証言により現場の写真であると認められる乙第二六ないし第三一号証、前記乙第五一号証、第五五号証の五、証人細貝、清水、森の供述を総合すると、次の事実が認められる。
同月七日、会社は東京地方裁判所から出荷妨害禁止の仮処分命令が組合に対し送達されたので、午後三時頃、組合の妨害により搬出不能になつていた前記製品を積載した自動三輪車を出門させようとしたところ、約一〇名の組合員が一応阻止の態勢をとつたけれども大した紛争もなく出門することができた。間もなく天野運送店の自動三輪車三台が入門し、そのうちの一台が同三時一三分頃車輛用部品を積載して出門しようとしたところ、組合の川西闘争委員がその前面に立ちはだかり、車が停止すると同人は前輪に片足を入れて前進を妨害し、また松内闘争委員は拡声機で「会社は強行出荷をしようとしている。直ちにピケを張つて出荷を阻止せよ」と組合員に指令し、これに応じて組合員が集り(約一〇〇名に増加した)、同人らはスクラムを組んで車を取囲み、フロントガラス、車体の前部、荷物台等に手をかけてこれを押返して出荷を阻止した。
(二) 製品等の奪取隠匿
(1) 成立に争いのない乙第五五号証の八、前記乙第五一号証、証人細川秀雄の供述を総合すれば、三月三一日午後五時頃、宮城は組合青年行動隊員一五、六名とともに会社電気試験室に来て、本社営業部次長細川秀雄ほか数名の非組合員が発送準備中であつた日本車輛向け螢光燈二〇個、同社二階組立職場に置いてあつた白熱燈二四個(完成品)および浜松航空自衛隊向け進入角標示燈二台を、いずれも細川次長の承諾を得ずに組合事務所に持去つたこと、なお、四月二日午後一時三〇分頃右進入角標示燈の発注者である三和電気興業株式会社の奥村常務が納期におくれた場合に予想される窮状を訴えて右製品の会社への引渡方を要請したところ、根岸は「事情は分らないわけではないが、闘争委員会で決定されたことであるから申出には応じられない」とこれを拒否したこと、また同日午後三時頃日本車輛株式会社の浅井某が根岸に対し前記螢光燈および白熱燈を早急に会社に引渡すよう要請したところ、同人は「会社との賃上げ交渉が前進しないので渡されない」とこれまた拒否したことが認められる。
原告らは、宮城らは上記物品の持去りについては現場責任者の了解を得た旨主張するが、これを認めるべき証拠はない。
(2) 成立に争いのない乙第五七号証の二、前記乙第五一号証、証人稲垣敏夫の供述を総合すれば、四月四日午前九時一〇分頃、組合闘争委員林、松内、石井、統制班長岡田らその他の組合員らは、会社硝子課長稲垣敏夫の制止にもかかわらず、組合の命令であると称し、会社硝子金型職場から自動車前照燈用硝子成形金型一二、三種を組合事務所に持去つたことが認められる。
(3) 前記乙第五一号証、第五七号証の二、証人甲野修の供述を総合すれば、前同日午後二時頃本社生産部主任甲野修(非組合員)が、石川島重工から受注のうえ完成したC型天井燈五個中の一個を工場から運搬する途中、闘争委員和知ら組合員数名は、右甲野に対し「組合の指令であるから渡せ」と要求して前記製品を同人から奪い組合事務所に持去つたことが認められる。
原告らは甲野主任が任意に交付したと主張するが、かような事情を認めるべき証拠はない。
(三) その他の業務阻害行為
(1) 前記乙第五一号証、証人清水、森の供述によれば、組合は三月二八日から四月二日に至るまでの間会社の許可を得ないで常時組合青年行動隊員約一〇名を会社の警備所に入り込ませていたこと(第三、二、1、(一)、(1)の事実)、四月二日午前八時頃から組合は工場正門内の右側に組立式天幕を張り、右正門の片側の扉を閉鎖して開放してある片方の通路口に無断で持出した会社食堂用長椅子や丸太を配置し、大体において四月一五日会社がロツクアウトを実施するまで会社の撤去要求にもかかわらず、同様の状態を維持していたこと(同(一)、(2)、ニの事実)が認められる。
(2) 被告会社が会社施設の損壊、面会強要による業務妨害として主張する事実(同(三)、(1)ないし(9)の事実)中、組合側の行為は原告らの明らかに争わないところであるから、自白したものとみなされる。
(四) 被告会社は、右(一)ないし(三)に認定した組合側の行為は違法な争議行為として許されないものであると主張するので、検討する。
(1) まず(一)、(二)について考えると、争議中であつても、会社が自社の製品その他その所有に属する物品等を搬出することは自由であるから、組合は特別な事情がない限り、争議行為として、会社の行う製品等物品の搬出を実力をもつて阻止することは許されないものというべく、また組合が争議行為として会社製品等を奪取隠匿することも同様違法であるといわなければならない。
ところで、昭和三一年三月三一日組合員に対し被告主張の指令第三〇号が発せられたことは当事者間に争いがなく、前記乙第五五号証の二、成立に争いのない乙第五九、六〇号証の各二によつて成立の認められる同第五四号証の二によれば、右指令は組合員に対し出荷阻止を命ずる趣旨のものであつたことが認められ、右事実と、(一)の物品搬出の阻止は右指令が発せられた日から始まつていること、ならびに(一)に認定した阻止の状況等を合わせ考えると、右物品の搬出阻止はすべて、その実行者が組合機関の意向とは独立に自己の単独の意思で実行したものとは到底考えられず、組合機関の決定に基づき、組合の統一的意図に従い争議行為として実行したものと認めるのが相当である。
また(二)の製品等の奪取隠匿等の行為も、前記認定の事情にかんがみ、(一)の行為と同様組合の争議行為として実行されたものと認められる。
しかして右各行為は、特段の事情が認められない本件において正当な争議行為であるということはできないから、労働法上の保護を受けることはできない。
(2) 次に(三)について考える。
(イ) 争議中、一般に組合がピケツテイングを実効あらしめるため会社施設ないしは備品等を利用することは、その破壊、毀損その他会社業務に著しい支障を来すような重大な結果を生じない限り、それらの利用を目して直ちに違法ときめつけることはできないというべきである。ところで、組合が三月二八日から四月二日に至るまでの間、会社の許可を得ないで青年行動隊員を警備所に入り込ませていたこと、四月二日頃から同月一五日までの間、会社の撤去要求にかかわらず、工場正門の右側に天幕を設置し、右正門片側の扉を閉鎖し、片方の通路に長椅子等を配置していたことは、弁論の全趣旨によればピケツテイングを実施するための手段であつたと推認されるところ、組合の右行為によつてその破壊毀損等の重大な結果が生じたことを認めるべき何らの証拠もないから、これらを違法な争議行為ということはできない。
(ロ) 次に放送の点については、争議中、組合が事業所内において拡声機等を利用して、組合員の連絡を図り、または組合員の士気を鼓舞し、非組合員への協力を呼びかけること等は、必要以上の高音を用いて喧騒を極めたり、あるいは事実に反する悪質な宣伝を行うなど、著しく不当でない限り、正当な組合活動として許されるべきものであるというべきところ、成立に争いのない乙第五七号証の四によれば、三月二八日から四月一四日までの間、経理部の事務等が組合の行う拡声機による放送に相当に悩まされたことは認められるが、右放送が前記のような意味で著しく不当であると認めるに足りる証拠はないから、これまた違法な争議行為ということはできない。
(ハ) 争議中であつても、会社職制等に対する暴力の行使ないしは会社施設備品等の破壊、毀損等は争議行為としても許されないというべきであるから、右(イ)、(ロ)の行為を除くその余の行為は、原告らが主張するように争議中通例とられる正当な争議行為ということはできない。
(五) 原告らが本件争議当時組合三役の地位にあつたことは当事者間に争いがないから、前記認定の事情からすれば、原告らは組合幹部として前記の違法な争議行為を企画、決定、指令したものと推認され、根岸および宮城はみずからも一部実行したことは前記認定のとおりであるから、原告らは右の限度においてその責任を負うべきであり、就業規則に定める懲戒についても免責を得られないものと解すべきところ、原告らの右行為はいずれも就業規則第六六条第二号「職場の秩序を紊したとき」、第三号「正常な業務を妨害したとき」の各懲戒解雇事由に該当するものと認められ、したがつて本件解雇の意思表示は有効であるから、この点に関する原告らの主張は採用することができない。
2 解雇手続の適否
(一) 成立に争いのない乙第四八号証、第五八号証の二、第五九号証の二、右第五八号証の二の記載によつて各成立の認められる乙第四九、第五〇、第五二号証、第五三号証の一ないし一四、第五四号証の一、二および前記証人清水、森の供述を総合すると、次のとおり認められる。
(1) 会社は、原告を懲戒解雇するに当り、就業規則第六七条に基づき、昭和三一年六月二二日第一回の懲戒委員会(以下「委員会」という)を開き、会社側の功力委員が議長となり、会社側において本件懲戒事案の審議に備え作成した委員会運営規定(乙第四九号証)を各委員に配付し、右規定により審議を進めることを諮つたところ全委員これを了承した。ところが、同月二七日の第二回委員会において組合側委員から、就業規則第六九条「この規則を改廃する場合は生産協議会に諮る」との関連上、委員会運営規定も当然生産協議会に諮るべきであるとの動議が提出され、二九日には組合からも同様の申入れがあつたので、会社もこれに応じて翌三〇日生産協議会を開催し、会社側工場長以下三名、組合側役員全部が出席し、前記運営規定を審議し、会社側は組合の要求を容れて一部修正した(乙第五〇号証)。しかるに、七月三日組合側から更に修正の要求があつたので、会社は同月六日、一〇日と二回にわたり生産協議会を開催して組合側と協議したが、組合側の修正要求はすべて理由がないとしてこれを斥けた。組合はその後もなお文書で会社に対し協議を申し入れたが、会社はその必要がないとして、同月一九日組合に対し、さきに組合の意見を容れて修正したものをもつて委員会運営規定とし、これに基づいて委員会を開くべく、組合側委員が出席しないときは参加権を放棄したものとみなし、会社は適当な方法によつて委員会を開き調査を進める旨通告し、なお、その頃修正ずみの運営規定を印刷して全従業員に配布し、かつ掲示した。
しかして、同月二七日第三回、同月二九日第四回の委員会には組合側委員も全員出席したが、運営規定についての協議が未了であるとし、会社が前記規定による運営を固執する以上委員会には出席できないと主張して実質的審議に応じなかつた。しかしながら、会社は同月三〇日組合に対し前記通告と同趣旨の通告をし、以後委員会は、組合側委員欠席のまゝ、八月一日第五回から一一月二日第一六回まで原告らの前記行為につき調査審議を重ねた上一一月二日会社に対し、原告らほか五名の斗争委員と統制班長一名について就業規則所定の懲戒事由該当の事実があり、懲戒を相当と認める旨の報告をした。
なお、その間会社は、第五回から第九回までおよび第一六回の各委員会の開催を事前に組合に通知し、第五回から第一〇回までの各委員会において審議した事項、取調べた証人の氏名等を組合に通知した。
(2) ところで、原告らは、懲戒委員会の運営に関する規定は性質上就業規則であるから、その制定については就業規則第六九条により生産協議会に諮ることを要するところ、前記運営規定は右手続を経ていないから無効であると主張し、右運営規定が就業規則の性質を有することは原告らの説くとおりであるが、次に述べる理由から、原告らの主張は、これを認めるわけにはいかない。すなわち、(イ)同条は「この規則を改廃する場合」に右手続を要するものと定めており、右にいう「この規則」の改廃とは新規則制定の形式による場合を必ずしも除外した趣旨ではないと解されるけれども、前記運営規定の内容は懲戒委員会につき就業規則の規定するところに牴触しない範囲において、その運営の細則を定めたにすぎないものであるから、同条にいう規則の「改廃」には該当せず、したがつて会社がこれを生産協議会に諮らなかつたとしても、同条に違反するものとはいえない。(ロ)のみならず、前記認定のとおり、会社は右規定を制定するに当り一応生産協議会を開催し、同協議会における組合側の意見の一部を容れてこれを修正しているのであるから、生産協議会に諮らなかつたとはいえない。(ハ)なお、右運営規定について管轄労働基準監督署長に対する届出がなされた形跡は認められないが、右届出はその効力の発生要件でないと解されるから、前記認定のとおり全従業員にこれを周知させた以上、右運営規定の効力の発生には何ら支障がない。
(3) 原告らは第五回以後の委員会に出席しなかつたのは正当な理由によるものであるとも主張するが、運営規定が前示のとおり有効なものであり、しかも会社側は前記認定のとおり組合に対し第九回までおよび最終回の委員会の開催については事前に通知し、組合側委員が何時でも出席できるような処置をとつていたのであるから、同人らがこれに出席しなかつたことは故なく委員会における審議権を放棄したものというべきであり、第五回以後の委員会が会社側委員だけで運営されたとしても、手続違背として責められるいわれはない。
3 不当労働行為の成否
原告らは本件解雇は同人らの組合活動の故になされたものであると主張するが、会社が原告らを解雇したのは、前記1に判示したとおり正当な組合活動の範囲を超えた違法な争議行為に基づくものであつて、とくに原告らの組合活動を嫌悪して同人らを企業外に排除するために解雇した事情を認めるに足りないから、右主張もまた理由がない。
三、以上のとおりであるから、原告らの主張はすべて理由がないので、本件請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 橘喬 吉田良正 三枝信義)
(別紙省略)